深刻な「デジタル赤字」をどう捉えるか

先日6/26(水)に、NHKのクローズアップ現代で「デジタル赤字」について放送されました。

(今回の参照)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4920/

 

なかなかインパクトのある言葉ですが、皆さんは「デジタル赤字」という言葉はご存知でしょうか。

例えばスマホ端末、各種配信サービス、クラウドサービスなど、私たちが普段使っているデジタルサービスを思い浮かべてみるとほとんどが海外企業のプラットフォームではないでしょうか。
こういった海外サービスの継続利用により、海外にお金が流れた結果の赤字分が「デジタル赤字」という言葉で表されるそうです。

 

そしてその額は1年間で5.3兆円。国として大きな課題となっています。

 

今回は放送からところどころ抜粋し、その現状を記事にいたします。

 

 

◼︎デジタル赤字の現状

2023年、日本のデジタル赤字は過去最大の5.3兆円に達しました。これは、日本がインバウンド観光収入で得た3.6兆円の黒字を大幅に上回る金額です。

 

 

背景には、スマートフォン、動画配信サービス、クラウドサービスなど、日常生活やビジネスにおけるデジタル技術の普及があります。

 

こうしたデジタル製品やサービスの利用が増えるほど、海外IT大手への支払いも増加。
円安の影響も相まって、これらのサービスの利用料が高騰し、企業経営に大きな負担となっています。

 

 

◼︎依存と赤字の悪循環

多くの日本企業はクラウドサービスを利用していますが、その大部分を海外企業に依存しています。

たとえば、レンタルバスターズというオフィス用品レンタル事業を行うベンチャー企業では、オンラインでの打ち合わせや在庫管理にマイクロソフトの製品が欠かせません。しかし、円安に伴う毎年の値上げが企業経営を圧迫しています。

 

このような状況は、クラウドサービスの利用拡大によってさらに悪化しています。

クラウドサービスは、企業が一からシステムを組む必要をなくし、大量のデータ処理や管理を容易にします。

しかしながら日本では、企業が利用するクラウドサービスの6割以上を海外のIT大手が占めています。これにより、企業が成長すればするほど、海外企業への支払いが増加し、デジタル赤字が拡大するという悪循環が生まれています。

 

 

◼︎円安とクラウドサービス

急速に進む円安により、クラウドサービスの利用料も上昇しています。

例えば、アマゾン傘下のAWSを利用する企業では、アプリ利用者の増加に伴いアクセスが殺到すると、サーバーの容量を簡単に増やして対応することができます。

しかし、その分、支払いも増え、事業を拡大すればするほどコストがかさむという問題に直面しています。

 

ヤプリのCEO庵原保文さんは、「われわれの最も重要なインフラはクラウドサーバーであり、会社の成長とともにコストが上がる」と述べています。

 

さらに、円安の影響で利用料の値上げが重なり、海外事業者への支払いはこの2年で20%増加しています。機能の充実度から他のサービスに切り替えるのが難しいため、企業はこの現実に直面せざるを得ません。

 

 

◼︎日本企業の対応策

1. 付加価値の創出

日本企業は、海外のクラウドサービスを利用しつつ、独自の付加価値を提供することで新たな収益を生み出すことが求められています。例えば、神奈川県の老舗旅館「元湯陣屋」では、クラウドを活用した旅館の運営システムを開発し、年間3億円以上の売上を達成しています。このシステムは、食材に関するお客様の情報を管理し、使用済みタオルの交換タイミングを知らせるセンサー、従業員の話した内容を自動的に書き起こす機能などを備えています。

 

2. 国産サービスの開発

国産のデジタルサービスを開発し、デジタル赤字の拡大を食い止めようとする動きもあります。創業10年のITベンチャー企業は、海外のIT企業に頼らない国産AIの開発に取り組んでいます。石油元売り大手と連携し、AIを使ったプラントの自動運転システムの開発に成功しました。これにより、プラント内の温度や圧力を高精度で予測し、作業員の経験に基づく操作をAIに置き換えることができました。

 

3. 研究開発への投資

巨額の研究開発費を捻出し、競争力を高める必要があります。日本政府や自治体の支援も重要です。例えば、政府が推進する「ガバメントクラウド」に、日本企業のSAKURA internetが選ばれるなどの動きがあります。こうした公的機関の支援により、日本企業のITサービスが広がることが期待されています。

 

 

◼︎スタジオトークにて

三菱総合研究所の西角直樹さんは、日本企業が「稼げる小作人」になるべきと提言します。デジタル分野では、付加価値を高める戦略が必要であり、非デジタル産業へのデジタル導入や、国内パートナーとの連携が重要です。

 

1. 富の流出

デジタル赤字は、日本のお金が海外に流れていくことを意味します。これは、将来に向けた投資のための体力を奪う結果となり、デジタル化が進むほど赤字が増える懸念があります。

 

2. 支配構造

デジタルサービスの市場が海外IT企業に集中すると、利用者側の交渉力が弱まり、値上げや条件変更に対して厳しい立場に置かれます。さらに、日本国内で統制が効かない場合、社会問題への対応が遅れる懸念もあります。

 

3. 安全保障

基幹インフラや重要なデータを海外IT企業に依存することは、政情不安や為替変動の影響を受けやすいリスクを伴います。独自のインフラを持つことが重要です。

 

 

◼︎勝利のカギは「付加価値」

 

神奈川県の老舗旅館では、クラウドを利用した独自の運営システムを開発し、年間3億円以上の売上を達成しています。このように、海外のサービスを活用しつつ、独自の付加価値を提供することが重要です。

 

ITベンチャー企業は、国産のAIを開発し、プラントの自動運転システムを構築することで、効率化と競争力向上を図っています。今後、AIの普及で消費電力が急増する中、省エネ性能を重視したクラウドサービスの展開を目指しています。

 

 

◼︎今後の展望

デジタル赤字の問題は、技術進歩やAIの普及など、新しい分野での勝利を目指すことが必要です。

日本政府や企業は、研究開発投資を強化し、優秀な人材を国内に呼び戻す努力を続けることが重要です。

日本の生成AI市場は2030年には1兆7,000億円を超えると予想されており、独自のAI開発が今後の鍵を握るとされています。

 

 

まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

消費者はまず良いサービスを使ってみること、そして事業者側は新しい技術を積極的に取り入れる文化を根付かせることが大事であると思いました。
トップから変わるに越したことはないですが、民間による革新、すなわち「シビックテック」的なアプローチでもできることはたくさんあると思います。

トップボトム両方からのアプローチがあれば尚良いですね。

 

引き続き世の中の縁のため尽力してまいりますので、よろしくお願いいたします。